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馬を愛し、競馬を趣味にしていらっしゃる方へ
コースを駆け抜ける競走馬の引き締まった体を見れば、日々ハードなトレーニングを積んでいることが容易に想像できますね。
では競走馬になる前、そして競走馬を引退してからは、どんな暮らしをしているのかご存知ですか。
ここでは、誕生前から引退後まで、競走馬の一生を時系列でご紹介します。
競走馬はどんな一生を送る?
~その誕生から引退後まで~
《1 誕生前》
まず、いきなり夢のない話をします。
競馬は典型的なブラッド・スポーツ、そこでもっとも重要視されるのは『血統』です。
両親祖父母の代にまで遡ってレース実績をチェックし、戦績の良い馬ほど
種雄馬(しゅゆうば)繁殖牝馬(ひんば)ともに価値が高いとされます。
特に種雄馬(通称・種馬)はピンキリであり、それは種付け料にも如実に反映されます。
例えば、素晴らしい成績を残したディープインパクトの種付け料は、なんと4千万円!
その一方、最低辺の種雄馬の種付け料は、無料〜25万円。
出生時どころか、精子の時点でこれだけの差がついているのです。
前者は良血馬と呼ばれ、生まれる前から活躍を期待されます。
後者は誰にも大した期待などされず、地方でボチボチ走ればね……程度です。
《2 誕生~仔馬時代》
種付けは春から夏にかけて行われ、約11カ月(330日)後には仔馬が誕生します。
生まれた仔馬の体重は40〜50㎏で、誕生後1時間を目安に自力で立ち上がります。
残念ながら、ここで立ち上がれない仔馬は競走馬としての適性なしと見なされ、
多くの場合、殺処分を受けます。
酷なようですが、草食動物である馬は歩けないと腸が駄目になって長くは生きられません。
そして、弱い仔馬を生かすには、余りにも費用が掛かりすぎるという現実があります。
問題のない仔馬は10日前後で母馬と共に放牧※1され、母乳だけでなく草を食べることを覚えます。
そして秋、9月頃には離乳※2させ、仔馬同士で暮らしながら競走馬としての訓練が始まります。
《3 調教開始》
離乳した仔馬が新しい暮らしに慣れ始めた11月頃から、
騎乗した人間が仔馬を後ろから追い立て走らせる『追い運動』を始めます。
最初は緩やかなペースで短距離を、徐々にピッチを上げて距離を延ばしてゆきますが、
この地点ではまだ馬装※3はせず、裸馬の状態です。
2歳でのデビューに向け、1歳の秋頃まではこの追い運動と放牧でスタミナをつけます。
1歳の秋には、馴致(じゅんち)と呼ばれる最も重要かつ困難な調教が開始されます。
これは競走馬に限らず、人を乗せるすべての馬に不可欠な調教で、
鞍・ハミ・手綱といった基本馬装に慣れさせます。
ほとんどの馬は最初激しく抵抗するので、根気と経験が必要です。
馴致を終えたら騎乗訓練に入り、2月春にはさまざまなコースで本格的な調教をつけます。
《4 デビュー・現役》
騎乗訓練の済んだ仔馬にはセリ市、もしくは牧場から直買する庭先取引によって馬主がつきます。
次にデビューまでの数週間をトレーニングセンターで鍛えられ、
2歳の6月頃から仕上がりに応じ順次デビュー(新馬戦)。
そこから引退まで年間3〜10レースを走ります。
現役競走馬の基本的なライフスタイルは、
レース→外の牧場で放牧・心身を休める→次のレースに備えトレセンに戻り調教(放牧で肥えた身体を絞る)→レース
この繰り返しです。
引退年齢に規定はありませんが、一般に競走馬は古馬(こば)と呼ばれる4歳がピークとされ、衰えれば現役引退となります。
最近では、衰え切る前に余裕を持って引退、第二の馬生を過ごせる馬たちも増えてきました。
《5 引退~その後》
競走馬の引退には、大きく分けて三つの理由があります。
- 加齢による衰え
- 怪我によるリタイヤ
- 成績不振による引退
1の引退ができる馬はある意味幸運です。
過酷なレースを戦い抜きながら、大きな怪我もなくそれなりの成績を残し、無事に『定年退職』できたのですから。
2・3の引退理由の場合、第二の馬生もままならず薬殺となるケースが少なくありません。
その『第二の馬生』にもいくつかのコースがあります。
- 繁殖馬として再び活躍する
- 乗馬・観光馬となって第二の馬生を送る
- 馬肉にされる
繁殖馬になれるのは好成績を残した優良馬のみです。
彼らエリートはレースに次いで繁殖で活躍後、放牧され豊かな老後を送ります。
しかし、そうした幸せな余生を送れる馬は、7千頭のうちほんの数頭に過ぎないのが現実です。
※1 放牧 馬を牧場に放し自由にさせること
※2 離乳 母馬と仔馬を引き離すこと
※3 馬装 人間が馬に乗るために必要な馬具を馬に装着させること
最後に…
ここまでの長文をお読み下さり、ありがとうございます。
競走馬になれるのは、産まれる前から選ばれし馬だけ。
そして、運よく競走馬になれたとしても、成績次第でその後の「馬生」はさまざま。
この事実を知ると、競馬を見る目も変わりそうですね。
以上、『競走馬はどんな一生を送る? ~その誕生から引退後まで~』でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。